雛人形と北前船
江戸初期に開かれた西廻り航路と呼ばれた、蝦夷地(北海道)と大阪の間を商いをしながら往来した廻船の事を北前船と言います。
北前船は各寄港地で積荷を売り買いした。買積廻船という動くデパートでした。
北前船最大の寄港地であった新潟には様々な物産とともに、雛人形のような文化も多くもたされました。北前船は衣食住のあらゆる文化を伝播させ、各地の文化と交流して新しい文化を発展させてきました。現在の新潟の多様な衣食住の文化は北前船の遺産と言えるものです。北前船によって育まれた新潟の文化を今一度残された遺産で見ていただきたいと思います。
雛人形を飾るひな祭りの始まりは3月の上巳の日に「ひとがた」に穢れを移し身代わりの「かたしろ」として流した古来の行事と平安の昔からの女の子の「ひいな遊び」が時代の流れの中で混ざり合って紙ひいな、立雛の形になりました。立雛もやがて作りが上等になり、流さずに室内に飾るようになると、より安定のよい座り雛が生まれてきます。
戦乱の世がおさまり徳川300年の泰平の時代が続くと一般の人々の生活も落ち着いて、文化も生活の中で大きな役割を持つようになり、力を持った町人文化の中で次第に雛あそびも、ひな祭りの行事に発展して女の節句として現在まで続いてきました。日本の人形文化は信仰と遊び道具の要素が集約されたもので雛人形もその代表とも思えるものです。
江戸期に現れた雛の系譜を概説してみます。
■ 立ち雛
紙雛、神雛とも呼ばれ紙で作ったものです。古く平安時代のひいな遊びとお祓いの「かたしろ」が、時代の流れの中で結びついて出来た雛人形の源流の一つとされています。時代が下がると紙雛の形のまま頭に髪をつけ、布地の衣装をつけたものも出てきます。
■ 寛永雛
寛永(1624〜1643)という時代の名前を持っていますが江戸初期から中期にかけての初期の座り雛の様式の名前です。初期特有の小型の雛人形で男雛は頭と冠が共作りで、頭は面長で髪を植え付けないで黒く塗ってあります。男雛にだけ手が付属するのも特徴です。女雛は小袖に袴の略装とし膝の部分に綿を入れて安定をよくしている。
■ 元禄雛
古式享保雛とも呼ばれるもので享保雛に移行する前駆的な雛である。寛永雛に似て小型で男雛の冠が頭と共作りで、顔の表情も墨入れである。衣装は寛永雛より大きく派手な装いになってくる。
■ 享保雛
江戸中期、享保頃に流行した雛で寛永雛、元禄雛がさらに発展し、高級化されたもので、比較的に大型の雛が多く、高さ45cmから時には60cm以上のものもあります。面長な顔で装束は金襴や錦を用い、男雛は両袖を張り太刀を差し、笏を持った姿。女雛は五衣唐衣装で、袴には綿を入れて丸く膨らませ、檜扇を持っています。
■ 次郎左衛門雛
京都の人形師、雛屋岡田次郎左衛門が創始した雛で、最初は上流階級相手のものであったが、宝暦11年(1761)江戸に進出して日本橋室町で売り出されてから普及し、従来の享保雛に代わって江戸の人気を独占しました。以降寛政頃まで江戸で広く親しまれました。面長だったそれまでの享保雛に比べて顔が丸く、引目鉤鼻の典雅な気品に満ちています。
■ 古今雛
京雛の次郎左衛門雛と相前後して現れた雛で、明和(1764〜72)の頃、江戸上野池之端の人形問屋が日本橋十軒店の人形師、原秀月に作らせたのが始まりで郎左衛門雛に代わり江戸で流行した江戸後期を代表する雛です。面長な顔で、雛の両目に瑠璃玉(ガラス)や水晶をはめ込んだものもあり、衣装には金糸、色糸で縫紋を加工、袖に紅綸子を用いたりして、写実的で色彩豊かに仕上げてあります。
こういった雛人形は都市を中心に発展して、都市を離れた地方にも北前船によって運ばれてきましたが、一方その地方でも今日、郷土人形と言う名で呼ばれている土や張子などの郷土色豊かな人形が作られて一般に流布するとともに、街道筋や寺社の門前町などで土産品として売られていました。これらは一般に安価なものですが、各地それぞれに題材が豊かで、中央的な人形を模したもの、その地方の風俗や伝承によるもの、地芝居などでなじみの深い歌舞伎に取材したものなどが有り、中には中央的なとりすました人形には見られない素朴な表情や、見ていて思わず吹き出したくなるようなものも有り、今日でも高く評価されています。そんな中の郷土雛の一端も一緒にご覧下さい。
●古い町屋と雛人形
今回ご縁を頂いて「画廊 Full Moon」で江戸期の雛人形展を開く事が出来ました。谷崎潤一郎は「陰翳礼賛」の中で闇や影に美を見出す日本人の特性について様々な例を上げて日本人の伝統的に灯りの背景としての闇や、暗さの魅力に敏感であったことを述べています。
日本の伝統的な家屋は土間や縁側から入った外光が障子を通して畳に影を落として行く先に床の間があります。モノトーンの陰影のグラデーションの中で日本の文化が育まれてきた事を今一度見直してみましょう。現代の明るい快適な生活を否定はしませんが、日本人は暗さの魅力を忘れかけているのではないでしょうか? 欧米人の方がむしろ室内における光と影、灯と闇の対比を上手に使いこなしているようです。そんな光と影の織り成す日本の伝統的な古屋での人形展を見て頂き、今一度快適な空間や灯はどのようなものであるか、古い時代に思いをはせてみてください。
新潟モスの会
新潟モスの会は地元の古布好きの仲間で結成された愛好会です。 |