渡辺さんの仕事場には、幾重にも塗られ磨き上げられた、小さな漆の板が並んでいた。そのつやと、朱と黒の面が生み出す緊張感に魅せられた。
かつての人々の暮らしの中に当たり前のようにあった漆の道具。その姿が消えてゆくにつれ、「朱」という色も、私たちには縁遠いものになってしまったのではないだろうか。
赤でもオレンジでもない「朱」は、明るく華やかでありながら、落ち着きと温かみのある、不思議な色である。
そして、朱は黒と組み合わさることで、より鮮やかに見える。どちらも大変強い色だが、朱は黒を、黒は朱を互いに引き立て合うのだという。
今回の作品は、絵画の形をしてはいるが、決して風景画ではないし、作者の感情や思考をストレートに表現したものでもない。
「見る漆器」と自らの作品を語る渡辺さんの言葉どおり、朱と黒の対比と、その美しい光沢を、ただ眺めているだけで心地よい。
それは、漆の持つ力によるものであると同時に、「自分は黒子。漆の良さをいかに引き立たせるかをいつも考えている」と話す、作者の技によるものなのだと思う。
じっと見つめ、色と質感を味わうこと、それが漆という素材に近づく第一歩であり、渡辺さんの作品を楽しむ、一番の方法なのではないだろうか。