好宮佐知子の作品には、私たちがいつかどこかで見た場所の記憶を呼び起こす力がある。「色の霧―3(4月)」を見た私は、晴れた日に部屋の片隅で日だまりを見つけた時を思い出した。画面の大部分を占めるのは、カーテンである。その下方には7つの四角形がある。これは向かいにある窓から注ぎ込む光だろうか。カーテンのひだに沿って曲がり、ゆがんだ四角形は、ここに立体的な空間や風による空気の動きがあることを示すだろう。
しばらくすると、カーテンの上から下に向かう赤、黄などでわずかに色づいた無数の細く長い線が現れる。これらは光の線だ。普段はあまり気に留めることのないような私たちの周りに降り注ぐ光は、この作品の中で色と形を得た。人が事物を見るために必要な光の存在を好宮は描くことで賛美しているようだ。
東京芸術大学大学院で壁画を学んだ好宮は、ヨーロッパの古典的な絵画技法を応用し、パネルに下地を作った上に絵の具や色鉛筆で色を重ねた作品を発表してきた。下地による凹凸を持つ画面には、大地から発せられるような温かさがある。
「自分が実際に見た光景、空気、雰囲気を描く」という作品は、描かれた対象や場所、時間を特定する要素がない。だからこそ、作品と向き合う私たちは、その中に広がる世界を自身の記憶をもとに自由に想像することができる。築百年以上の古民家を改造したギャラリーの中で、好宮の作品はどんな光を発するのか、楽しみである。