新潟大学の工芸美術教授を定年退官して6年の小磯さんは、東京芸大で専攻した漆芸の制作を楽しみ、毎年個展を開いている。今回は漆絵など22点と、スケッチ4点の展観である。
うるしの名称は「うるわし」という言葉から来たと聞いたことがある。小磯作品の厚さ約2センチの板は、吸い込まれるような深い漆黒と、しっとりした光沢に、朱や緑の色漆と線描の金色が映えて美しい。
この漆黒塗は「本堅地呂色仕上げ」といい、形を整えた木地に麻布を漆で張り、数回下地付け、下塗り、中塗り、上塗りと磨きなど、37回もの工程を経て、独力で完成したという。普通は工程ごとに十数人の職人が分担するそうだ。
展示作はぼたん、バラ、サルトリイバラ、ホオズキなどの花や動植物で、注目されるのは、それらの形態を堅実なデッサンで表す、幅0.5ミリほどの細密線描「金泥絵」の技術である。
これは、ほぼ絶滅したクマネズミのわき毛で作った極細筆で描くとか、先端の透き通った約1ミリの「水毛」部分は毛のウロコ=キューティクル=がなく、粘りある漆液が素直に細く垂れる。これで生漆の細線を引き、細かい金粉をふりかけ、金泥になった漆が乾き固まったら磨き出すという。
描きそこないが許されない手法だから「健腕直筆」の熟練した手だれが必要だ。筆勢や筆の溜めなど、この線がこれからどんな味が出るか、楽しみである。