風だるま No. 02
にいがた水紀行・2

 
鳥屋野潟を走る
小船井秀一
 
  
 最近、立て続けに2台、新車を買った。何しろ教員なんで、金はさっぱり持っていないんだけど、なけなしの収入を洗いざらいはたいて、スポーツ車を買ってしまったんですよこれが。これで当面、月賦で首が回らないけど、そんなことはいいのだ(ほんとはあまりよくないけど)。さわやかな風を切って走るこの爽快感。海岸沿いのワインディングロードを駆け抜ける時のキモチよさ。もう楽しい楽しい。
 ……いや何、チャリンコの話ですよ、チャリンコの。あんたね、僕がそんな乗用車を二台も買えるほどの金持ってるわけないじゃないの。つまり、MTBとランドナーを買ったわけ。
 しかし、チャリンコってのはいいね。何しろ、ガソリンを食わないから燃費がいい。早い話、乗り手が飯を食っていればそれが燃料になるんだから(ただし、途中でのどが渇いたといってビールなんぞ飲むと、かえってガソリンより高くつく。ありがちな話である)。それに何より、環境に与える影響がすごく低いのがいい。だって排気ガスを出さないんだから。もっとも僕の場合、これらのチャリンコをバンに積んで目的地まで走ってしまうから、あんまり環境にロー・インパクトであるとは言えないかも知れない。反省。
 で、せっかくチャリンコを買ったんだから、それで水辺を巡れば楽しいじゃないですか、と考えるのはすごく自然だ。というわけで、水紀行の一発めは、新潟市を代表する湖、鳥屋野潟の一周ツアーということにしました。
 とりあえず、潟の北東部、弁天橋のたもとからスタート。この辺から見る潟の色は、はっきり言って泥水色。よくまあここまで汚れたものだ。まるで、小学校の図工のお絵描きの時間の筆洗い水みたいだ。春には、新潟市一の桜の名所として多くの人が訪れるが、こんな水では、花見の興も覚めるのではないか、といらぬ心配をしてしまう。もっとも、花見ってのは、基本的には単なる宴会だから、案外誰も気にしていないのかも知れないが。それに、花見シーズンが終わる頃にはいつも、膨大なゴミがあとに置き去りにされる。そんなことをする人たちが、水の汚さを気にするはずもないか。 
 ともあれ、潟畔の桜並木を左手に見ながら、ペダルを漕いでいく。看板が立っている。『よみがえれ、鳥屋野潟』。鳥屋野潟の汚れの原因のほとんどが、市民の生活雑排水だと書いてある。「だから汚水を出さないようにしましょう」。そのとおり。でも、現実には、普通の人々の普通の生活の中で、相変わらず汚水は流され続ける。「広域下水道ができれば、鳥屋野潟はきれいになります」。いつなんだ、それは。もちろん下水道も大事に決まってる。でも、「汚れたものはここでなく、どこか別の場所に捨てましょう」という感覚では、事態は全然変わらないんじゃないか。本当に自然を大切に考えるんなら、いかに自然にダメージの少ない方法を選んでいくか、ということを考えなきゃいけないんじゃないか。
 ……いかん、感情的になってしまった。これでは先に進めない。今の話は後日改めてということで、サイクリングを続けます。
 潟の北東部は、リゾートホテル、ついでにラブホテルが軒を連ねている。さらに少し走ると、東新潟のスポーツの拠点、鳥屋野総合体育館がある。この少し先までは、道路も潟沿いに走っている。ここを過ぎると、しばらく住宅地が続く。この辺までで、鳥屋野潟北岸の半分まで来たことになる。
 道端にチャリを止めて、潟を眺める。岸辺はアシ原になっており、沖合にも浮島のようにアシがあちらこちらに浮かんでいるのが見える。遠く向こう岸に、遊園地の観覧車がかすんでいる。結構広い湖なんだな、と思う。県庁所在地の都市で、これだけの湖があるところはそうはないだろう(琵琶湖のある大津とか穴道湖のある松江は別にして)。水はやっぱり汚い。ゴミもたくさん浮いている。もったいない、と思う。
 潟の北西部には、県立自然科学館や図書館、野球場、交通公園などがまとまっている。新潟の新しい文化ゾーンといったところだ。前述のホテル地帯も含めて、駅南地域として都市化が進行している潟の北岸の象徴とでも言えようか。
 これらの施設に隣接して「県立鳥屋野潟公園」というのがあった(同名の公園が潟の南側にもあるが、それとは別物)。潟畔に面していて、広々とした芝生のあちこちに樹木が植えられている。野鳥の鳴き声なんかも聞こえたりしてなかなかのどかでいいんだけど、水辺には近づけない。近づこうにも、欝蒼としたアシ原が、水面を覆い隠している。ロケーションはいいだけに、惜しい。もっとも、汚いどぶ水で水遊びする奴なんていないか。おまけに、アシ原はそのどぶ水を浄化してくれているわけだから話が難しい。水がきれいなら、そんなこと悩まずにすむんだけどねぇ。
 さらにチャリンコを走らせる。小張木の住宅地も、ほとんど潟の岸辺まで迫っている。潟をぐるっと回って、親松排水路を渡ると、ここにも「県立鳥屋野潟公園」。こちらのほうがさっきのやつより規模がでかい。市内でも人気の高い公園の一つで、平日の夕方だったけど、広い駐車場にはけっこうな数の車が止まっていた。
 この公園の売りは、人工の渓流。夏には、水遊びを楽しむ大勢の子供や家族連れでにぎわう。だが、以前別の所でも書いたが、こういうのを僕は好きじゃない。インチキだと思っちゃうんだよねえ。せっかく目の前が湖なのに、わざわざ偽物の川を作らなくてもって思っちゃうわけよ。公園から潟へは行けないようになってるしね。ま、潟がちゃんとしなけりゃ仕方ないんだけど。
 もう少し走ると、今度は田んぼが広がる。ここまで来ると、もう潟の北岸とは大違い。昔ながらの、のどかな田園風景だ。田んぼ道を走りながら、岸辺に近づく。船着き場らしいところがあったので、行ってみる。水の色が、北側とちょっと違う。確かにきれいではないが、あんな極端な泥水色じゃない。少しだけれど、透明度もある。つまり、潟の北側は、市街地、住宅地から流入する下水でどろどろになっているが、南側はまだそこまではいっていないということなのだろう。
 もうしばらく行くと、潟の南東、長潟の住宅地に入る。あとは道なりに進み弁天橋を渡って、これでツアーはおしまい。時間にして、ゆっくり回っていろいろ見れば、三時間くらいかな。
 実は、これまで僕は、鳥屋野潟に手をつけるのは避けてきた。一度手をつけたら、絶対深みにはまると思ったからだ。しかし、もう遅い。鳥屋野潟は、面白い。といっても現状が面白いわけではなく、未来図を考えるのが面白い。今は確かにろくでもない湖だけど、まだまだ将来の可能性はたくさん残されていると思う。というわけで、次回も、鳥屋野潟についてさらに深く見つめてみようと思います。(この頁つづく)

 

 
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