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にいがた水紀行・12
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高柳町・鯖石川紀行
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小船井秀一
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高柳町は、緑多き町だった。 柏崎市から、鯖石川沿いに、国道252号を南下して行く。田園風景がすぐに低山の風景に代わり、濃い緑が初夏の陽射しの下で鮮やかに見えている。鯖石川は大して広い川ではないが、途中途中でなかなかの渓谷らしい姿を見せる所もある。けれど、水はそれほど澄んでいるというわけではない。 40分ほど走って、高柳町「じょんのびの里」に着いた。奥の売店ではすでに、この日僕らが参加する見学のメンバーが集まり、くつろいでいる姿が見えた。僕と友だちは、少し急いで彼らに合流した。 実は、5月の最後の土日、新潟の水辺を考える会が、鯖石川の見学を企画したので、僕らもそれに参加させてもらったというわけなのです。この日のメンバーは、同会会長の新潟大学工学部教授・大熊孝夫妻をはじめ約10人。このときは二日とも見事な快晴で、初夏の陽射しを存分に浴びながら、僕らはこののんびりとして穏やかで美しい町で、楽しい週末を過ごしたのでした。 鯖石川は高柳町から柏崎市を抜ける二級河川。今回は、この川に新しく、魚が遡りやすく生きやすいタイプの洗い堰が作られたので、それをウォッチングするというのが第一の目的。さらに、上流にある治水と農業用水確保のための重力式ダム、鯖石川ダムを見たり、夜は地元の誇る宿泊施設「かやぶきの里」で、地元のカヌーの会の人々を交えて、楽しく話し合いをしつつ、飲みかつ食ったり、翌日は、地元の山の山開きだったのでこれにも参加したりと、なかなか盛りだくさんの企画だったのでした。 新しい洗い堰は、コンクリートのたたきをベースに、玉石を数多く配置したもの。全面が穏やかな傾斜になっており、いったんせき止められた水が、その傾斜をせせらぎとなって流れ落ちている。山間部の河川によく見る、砂防ダム的な垂直の堰では全然ないので、魚も川をさかのぼりやすそうだとは思った(何でも、当初は魚にとって極めて生活しにくい、もっとはっきり言えば生死に関わるような堰が作られる予定が、大熊先生たちの働きかけで計画変更したということだ。県もそういう粋なことをするようになったか、と少しは感心した)。そういえば、この連載の初めに書いた、加治川の洗い堰も、完成したばかりのころはおそらくこんなだったんだろうとも思う。水中に魚影は見えなかった。鮎かなんかがさかのぼる姿が見られたらいいなあなんて考えたが、はっきり言っておよそ清流とはいえない川なので、それは難しいかも知れない。「鯖石川が濁っているのは、いわゆる地滑り地帯を流れているからなんです」と、大熊先生が説明してくれる。「地滑り地帯の川には、どうしても細かい砂や土が混じりやすい。だから、川は清流にはならないんです」。なるほど。別に上流に工場があるとか、生活雑排水が流れ込んでいるとかいう理由じゃなくて、とりあえずほっとした。 とはいっても、場所によってははっとするほど見栄えのいい渓谷を形づくっているところもある。柏崎と高柳との市町境のあたりはまさにそんなところで、車を運転していても、思わず渓谷美に見入ってしまうような個所が結構ある。地層がむき出しになっていたり、深い谷を刻んでいたりと、なかなかおもしろい川なのだ。 しかし、まとまった雨が上流に降ったりすると、いきなり大濁りしてしまうのがこの川の悲しいところ。ふだんでも大して澄んでいないのに、もうどろどろになってしまう。泳げる川を探している僕としては、残念ながらこの川はその対象にはならないようだ。正直いって、水量もあんまり多くはないし。もちろん、それで悪いというわけじゃないけど。 鯖石川ダムは、意外に大きなダムだった。ダム下流の水量に比べて多すぎると思われるような水を貯えていた。水はずっと澄んでるように見えた。川の水とはだいぶ違っているんだけれど、なぜだろう。 ふと見ると湖面に何か黒い大きな魚の群れが、あちこちに固まっているのが見えた。「コイだよ。コイ」。誰かが大きな声で言った。「コイ」と認定されたその魚の群れは、本当にたくさん、ダム湖にあふれんばかりに泳いでいるのだった。 後で宿の管理人の小林さんが言うには、あれはニゴイなのだそうだ。それじゃ食っても小骨ばかり多くてうまくねえや、などとがっかりしたのは僕だけだろうか。何しろ、鯖石川ダムは釣りの名所なんだそうで、ヘラブナなんぞを目当ての釣り客が結構来るらしい。釣りの大会なども行なわれるということだった。 その夜、みんなで泊まった「門出かやぶきの里・いいもち」はよかった。新しい建物なのだが、わざわざかやぶきにして、板張りの宴会場(って言っていいのかな)にはちゃーんと囲炉裏も切ってある。そこには、僕らが到着するころにはすでに鮎の塩焼きが並べてあって、いい匂いが宿中に広がっていた。そのほかの料理がまたいい。地元の農家の人たちがかわりばんこに当番をして、近所で取れた山菜や、自分とこの野菜なんかを料理してくれてテーブルに並べてくれる。どれもこれもおいしくて、山に盛られた皿も見る見るうちにカラになってしまう。酒もうまかった。地元でカヌーを楽しむ「川トンボの会」の皆さんが持ってきてくれた地酒、もう最高。こんなふうに、うまいもん食ってうまい酒飲んで、楽しく語らい夜はふけていくのでした(この施設、さらに驚いたのは、安いこと。前述のとおりのありさまで一泊して、一人8000円しない)。 翌日は、町内にある黒姫山(標高889メートル)の山開きに参加。この山、標高500メートルくらいまでは車で行けるので、実質300メートルちょいしか登らなくていいんだけど、いや、実にいい山でした。登り口のすぐそこからブナの巨木が立ち並び、さらに登っていくと、天然のカエデの林があったりする。クロモジの木からはいい香りがしていた。野鳥の声もひっきりなしに聞こえる。ここで僕は、おそらく生まれて初めてホトトギスの鳴き声を聞いた。「トッキョキョカキョク」ときこえるあれは間違いなくホトトギスだと思う。 頂上に着くと、役場の人が豚汁を作って待っていてくれた。うまかった。ビールもご馳走になった。死ぬほどうまかった。驚いたのは、このとき参加者全員で記念撮影をしたのだが、僕らのような町外者にまでちゃんと写真を送ってくれたのだ。僕はこの町がすごく好きになった。 高柳町のいいところは、ゴルフ場みたいなくだらない施設を作ったりせず、ありのままの町の自然そのものを売り物にしようとしていることだ。そして、地元の人たちが手作りで、訪れる人々のもてなしをしているというのもすごくいいと思う。本来、リゾートというのは、こういうものであったはずだ。スキーやゴルフやレース場や遊園地だけがリゾートじゃない。僕は、高柳の人たちを応援したくなった。そんで、またここに遊びに来て、うまいもんを食ってゆっくりくつろぎたいと思ったのでした。
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