風だるま No. 21
にいがた水紀行・19

 
阿賀野川河口・右岸
小船井秀一
 
  
 子供のころから、阿賀野川が好きだった。中学生の時にサイクリング車を買ってもらってからは、よく阿賀野川の土手道を、風を切って突っ走った。夏場なんか、真っ青に広がる空の下、熱い太陽に焼かれながら、川風を浴びてペダルを踏んだ。空の色よりもずっと青い水をゆるやかに運んでゆく阿賀野川が好きだった。土手から見下ろすあの風景は、僕のいちばん好きなものの一つだったろう。もちろん、その気持ちは今でも変わらない。ただ、子供のころのように、じっくりと阿賀野川を見る時間がなくなっている。それが、少し残念だ。
 そんな折、「阿賀に生きる」を見た。あの、評判をとった、佐藤真監督のドキュメンタリー映画だ。阿賀野川中流域の美しい映像と、そこに住む人々の生活ぶりが淡々と描かれた、すばらしい映画だった。僕の好きな阿賀野川の世界が、僕のイメージ以上のものとなって、目の前に広がっていたから。また、どうしても、阿賀野川をじっくりと見てみたくなった。
 というわけで、今回から少しの間、ひとつ僕も、阿賀野川について書いてみようと思います。何しろ、対象がとてつもなくでかいので、どういうふうに切り込んでいこうか考えあぐねているところもあるのですが、とりあえず書きながら考えていこうなどと、いいかげんなことも考えているわけで、どうなるかはわかりませんが、ま、あまり期待せずに読んでいただければと思うわけで。
(上)河口右岸に広がる砂丘

(中)寒風の中、ウィンドサーフィンを楽しむ人も(阿賀野川河口右岸)

(下)河口の池ではヨシの群落が茂っていた
   
 
 阿賀野川河口は、実は、なかなかおもしろいスポットだと、ずっと思っていた。左岸側は、新潟空港があり、夕方から夜にかけては、飛行機の離着陸とか滑走路の明かりがなかなかきれいで、明らかにアベックと思われる車が何台も土手道に止まっていたりするという、比較的知られた場所ではある。しかし実は、なんといっても面白いのは、ふだんはあまり人の行かない右岸のほうなのですよ。
 この日は3月の頭。川沿いの住宅地をすり抜けて、河口というか浜への入り口を探す。以前入り口だった場所は新たな住宅分譲地になっていて、ちょっと困る。何もこんな海っぱたにまで家を立てなくてもいいじゃないの、なんて思う。だいたいどこもそうだけど、水際近くまで建物を建て過ぎだよ。美しい水辺の風景がほしいんだったら、まず水辺にはよけいな人工物なんか作っちゃだめなんだよ、などとブツブツいいながら別の入り口を探す。幸い、生コン工場の横に小さな空き地があったのでそこに車を止め、そこから堤防を越えて浜というか河口の土砂堆積地に入り込む。
 まず、いきなりそこそこの広さの池が広がっている。特別きれいというわけではないが、それなりに透明度のある水がたたえられている。深さも結構ありそうだ。周りは、堤防で仕切られている部分を除いては、ヨシの群落が季節風になびいている。魚がいるかどうかはわからないが、たぶんいると思う。以前ここに来た時は、釣り人が糸を垂れていたのを見た気がするから。この池は、おそらく土砂の堆積や海から吹く風などで、阿賀野川から切り離されてできたのだろう。湖好きの僕としては、強く興味をひかれる池だ。環境からいって、とんぼなんかいっぱい出そうだよなあ、なんて思ったりする。春になれば、野鳥の声もたくさん聞けそうだ。
 そこから今度は川のほうへ向かう。砂を踏みしめながら歩いていくと、上空に飛行機が姿を現した。じっと見ていると、飛行機は静かに向こう岸の空港に着陸した。別に墜落はしなかった。川面を見ると、なんとこの寒いのに、ウインドサーフィンをやってる人たちがいるんですよ。季節風をうまく捕まえて、水面を滑るように走ってゆくカラフルな帆。思わず「かっこいいな〜」とつぶやいてしまいましたよ。しかし、厚いコートでもこもこしている僕でさえ寒いのに、彼らは寒くないのかしら。川はいつものように、静かに流れていた、風が強いせいか、海からの白波が川に幾重にも入り込んでいた。
 振り向くと、砂丘が広がっていた。ところどころに草やぶをおいた砂丘が、いくつもの起伏を連続させながら、海までずっと続いていた。広さはどれくらいになるだろうか。まさか鳥取砂丘とは言わない。大河津分水河口のあの浜の広さにもかなわないだろう。しかしそれでも、十分な広さを持った砂丘がここにはあるのだ。天気がよく、砂が乾いているときには、実に見事な風紋がかたち作られる。春、そして夏になれば、名前はよく知らないがマメ科の美しい花やハマヒルガオが咲く。西新潟の海岸の多くは、広い浜がすっかり消え去り、テトラポッドに埋め尽くされてしまったが、ここはまだすばらしい海岸の風景がそのまま残っているのだ。晴れた日の夕方、西の海に沈んでゆく夕日を眺めていると、しみじみと感動さえしてしまう。
 実際、ほとんど人の手の入っていないこんな河口の風景が、ここにはあるのですよ。こんな寒い季節でなく、皆さんも一度ここを訪れたらいい。天気のいい休みの午後あたり、砂丘をゆっくり歩いてみるのも、なかなか面白いと思いますよ。僕のおすすめの場所です。 

 

 
水紀行目次
制作・管理 反画工房