風だるま No. 29
にいがた水紀行・24

 
番外編・日本ツキノワグマ集会に行ってきた
小船井秀一
 
  
 10月の7日と8日、山形市の山寺で開かれた「日本ツキノワグマ集会IN山寺」に行ってきた。絶滅の危機を迎えているとも言われるツキノワグマを守るために活動しているさまざまな分野の人々が一堂に会し、人とツキノワグマの共存のために何をするべきかということを話し合う集まりだ。ツキノワグマを守ることは、ひいてはその他の多くの生き物の生存を守り、自然環境を守り、人間の命も保たれる、というのがここに集まった人々に共通する思いだ。もちろん僕もそう思っているわけで。一昨年の宮城・鳴子、昨年の岩手・遠野に続いて、今回が三回目となる。
 このイベントの実質的な主催者である、「ツキノワグマと棲処の森を守る会」会長の板垣悟さんは、仙台市に住む郵便局職員。
 僕が板垣さんと出会ったのは、まだ僕が仙台の隣の泉市(今は仙台市泉区となってしまっているが)で、ある全国紙の地方記者をやっていた8年前のことだった。仙台支局で自然保護の記事を多く書いていた僕は、ある人から「面白い男がいるよ」と教えてもらい、「それなら記事にしてやろう」という不純な? 動機で板垣さんの住むアパートに行ったのだ。その取材でなんだかやけに話が合い、なかなかでっかい記事を仕立て、板垣さんの仕掛けるさまざまなイベントに参加し、さらに記事を書いたりしているうちに、すっかり友だちになってしまったというわけだ。新聞記者を辞め、新潟に帰って教員になってからも付き合いは続いていて、一昨年にはわざわざ新潟に来てもらって、編集長の小川さんを含む仲間たちと一緒になって仕掛けた環境イベントで講演もしてもらった(ついでに当時の勤務先の高校でも特別授業をしてもらったんだけど)。
 しかし、初めのころの「守る会」は、板垣さんのほか数人のメンバーしかいない、ほんとに小さなグループだった。そんな仲間たちが、仕事の休みを利用しては、ツキノワグマの住む山の林に、クマの保護を訴えるプレートを設置したり、行政にクマ保護のための施策を行なうよう直接に交渉したり(全国の自治体にクマ保護のためのアンケートを求めたときには、多くの自治体から回答があり、それを記事にしたら何と全国版に載ってしまい、それを見た漫画家の園山俊二さんが、当時連載していた「ペエスケ」のネタにしてくれたのは、僕も板垣さんもうれしかったなあ)、地道に活動していくうちに、だんだんと賛同してくれる人々が増え、今では全国に会員を持つ大?組織となってしまった。今回の集会にも、北海道から和歌山、広島まで、全国津々浦々から約百人の人々が集まったのですよ。ちなみに、新潟からも、朝日新聞の記者や新潟大学の学生さんも参加してました。
 板垣さんをすごいと思うのは、とにかくやれることをやってしまう行動力と気力がある、ということ。ふつう、県庁に自分たちの要望書を持っていったりとか交渉をしたりなんて、気後れしてできないじゃないですか。そういうことを臆することなくやっちゃうというのは、なかなかすごいと思うし、そうか、ビビらずやっちゃえば結構なんとかなるんだな、という勇気も与えてもらえる。僕たちも見習いたいと思うわけで。
 さて、今回の集会のテーマは、「森を守り、農作物を守り、クマを守る・ヒトとクマとの共存をめざして」。クマによるさまざまな被害の実態を直視しつつ、クマをどのように保護していかなければならないか、ということを、さまざまな立場の人々が語ってくれた。
 広島クマ研究所の米田一彦さんは、クマ保護活動家として有名な人物。米田さんは、捕獲したクマを殺さず「奥地放獣」という形で助ける研究を続けている。放つ際には発信機付き首輪をつけ、クマ撃退スプレーを吹きかけて人間に恐怖心を持たせ、里に近づかせないようにする。その結果、放獣されたクマによる被害はほとんどなくなったのだそうだ。 米田さんは言う。「クマを守っていくためには、執行力のある行政と組まなければやっていけない。また、(クマと関わる機会の多い)農民の声、ハンターの声、養蜂家の声を聞き、農民や養蜂家を守る方法も考えていかなければならない」。現に行政の要請でクマ現実の観点から保護研究に携わっている米田さんの、重みのある言葉だ。
 しかし、「クマ除けスプレーを吹きかけて人間に恐怖心を持たせて奥山に逃す」という奥地放獣の考え方は、低くて浅い山の多い中国地方でもできるのなら、新潟でも可能なやり方だろうと思う。県内でも、五頭山のふもとなどの山里ではよくクマが現れて農作物に被害を与えている。そのクマを捕えたときに、この手法がとれないものだろうか、と思う。
 山形の養蜂家・安藤竜二さんからの苦労話も聞いた。クマは蜂蜜が大好き。だから、蜜がいっぱい詰まっている蜂の巣箱は、クマにとってはごちそうの箱だ。というわけで、クマによる被害は大変多いそうだ。安藤さんはこういう。「『養蜂家VSクマ保護』というふうに、対立していると考えられるのは困る。養蜂家は自然の専門家であり、自然保護活動には大きな力を持っている。養蜂家も自然保護活動家も、両方同じ立場である、と考えてほしい」。安藤さん自身も、クマを殺さず撃退するために、「電気牧柵」を二重に巣箱の周りに張りめぐらし、被害をなくしたそうだ。この他にも、林業の専門家から、杉林の「クマハギ」による剥被害の話、岩手の小学校の先生の、学校の近くにクマが出たときの騒動の話など、興味深い話をたくさん聞かせてもらった。
 まだまだ盛り沢山で、書き切れないことばかりのこのイベント。最後に僕の感想を。クマに限らず、自然を守るには金と手間、我慢が必要なんだと、あらためて思う。でも、それらを惜しんでしまうと、人間を含めたあらゆる生き物は、生きていけなくなってしまうというのも、また確かなことだろう。現実の状況を理解しつつ、現実を何とか理想に近づける努力を、市民も行政も学者もマスコミも、手を携えてやっていかなければならないと思う。となると、一番やっかいなのは、やっぱり行政かな。
 ともあれ、いずれはこの集会を、新潟でも開けるよう、僕も考えようかな。その時は編集長の小川さんも協力してくれるだろう、ね。

 

 
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