風だるま No. 50
新・にいがた水紀行・10

 
自然と人工物の折り合い方
小船井秀一
 
  
 津南町の隣、中里村の景勝地「七ツ釜」といえば、行ったことはなくとも一度は耳にしたことのある地名だろう。信濃川の支流・清津川のそのまた支流の釜川の上流にある、何段もの滝となって流れ落ちる豪快で美しい渓流美は、県民だけでなく広く全国に知られている。
 その七ツ釜が、水害のために崩壊してしまったのは、今から4年前、1995年のことだった。渓流の岩盤が崩れ去り、往時の渓谷美がすっかり失われてしまい、危険であると同時に観光地としての美しさも失っちゃったのだった。ぼくが津南に来て2年目のことで、実はその時まで、ぼくはまだ七ツ釜に行ったことがなかったんで、なんか非常に悔しい思いをしたことを覚えている。
 で、行政が考えたのは、「これまであった岩とよく似せた『擬岩』で砂防ダムを作り、可能なかぎり『七ツ釜』のイメージを残そう」ということだった。それで一見、周囲の柱状摂理の岩肌とよく似た見てくれの砂防ダムが、崩壊した岩の代わりに屹立することになったというわけだ。
 というわけで、5月の日差しうららかな日曜、じっくり見学しようと車を走らせたわけで。
 七ツ釜へは、新潟方面からは国道117号の清津大橋を渡って津南町に入り、すぐ左折してどんどん山の方へと進んでいく。初めは比較的開けたところにいくつかの集落があって、日帰り温泉施設なんかもあるんだけど、さらに進むとどんどん山奥っぽくなってくる。そんな中にもちゃんと集落はあって、みんなそれぞれの生活を営んでいるわけだけど、冬の雪はやっぱりすごくたくさん降るそうだ。
 矢印を頼りに、右手に釜川の渓流を見ながら進んで行くと、やがて七ツ釜の駐車場に着く。案内板を横目に、七ツ釜へのがけ道を降りていく。
 このがけ道が、結構たいへんな道。角度も急で、思いの外道のりも長い。きつい傾斜の下り坂を、足下が滑らないように注意して降りていかないとヤバイ感じ。角張った石を踏みしめ踏みしめ、慎重に降りてゆく。最後の階段を降りきれば、渓流のほとりに出る。
 なるほどそこは、いかにも豪快で険しい渓谷だった。激しい勢いで、何段もの小さな滝を作りながら流れ下っていく釜川の水。正面に屹立するのは、おそらく高さ数十メートルはあろうかという目もくらむほどの岩の崖。荒々しく美しい柱状節理の岩肌が川の流れに沿って連なっている。これほどすごい柱状節理を見ることができるところは、そうはないだろう。さすが、戦前からの国指定の名勝だけのことはある。
 などと感心しながら目を上流に向けると、ありましたよ、例の「擬岩ダム」が。
 

 岩が砕けてできたと思われる角張った石の河原を上流に向かって歩いてゆく。近くで見ると、擬岩ダムは、なるほどよくできている。崩れてしまった岩肌を、周囲の柱状節理との違和感がないような感じで、色も形も合わせて再現している。ダム本体もそうで、いわゆる砂防ダム然としたコンクリート打ちっ放しの感じでなく、きちんと岩のように見せている。これを造った建設省や土建会社の皆さんの苦労はさぞ大変だったろうと思う。
 といっても、それじゃ完全に昔の七ツ釜が再現されているか、といえばもちろんそんなことはない。おそらく誰が見たって、少なくとも砂防ダムとその周辺は、明らかに人工物だってことはわかるはず。七ツ釜の近所に住む職場のお客さん(元生徒ともいうかも)が言うには、「なんだかチャチくなっちゃった。昔の三分の一くらいになった感じ」だそうだが、それだけでなく、やっぱり、規格がその他の「無粋な」砂防ダムとおんなじなのね。擬岩を取っ払えば、例の直線的で無機質なダムになっちゃうわけよ。

 とはいっても、じゃあ崩れたまんまで放置すればいい、ということになるだろうか。もちろん、「自然というのはそういうことがあって当然で、人為は極力加えるべきでない」と考えるディープな自然保護主義者もいるとは思うけど、現に土石流や洪水が下流に押し寄せるのを防がなけりゃならないとすれば、ある程度の工事は必要なんだろう。そこで、「何をどこまで行うのか」ということを、みんなで意見を出し合って決めていくのが大事なんじゃないかな、とも思う。
 個人的には、ぼくはこの「擬岩ダム」が好きじゃない。なんだか、すでになくなったものを無理やり再現しちゃうってのは、「ゾンビ」みたいで面白くない。でも、だったらどうすればいいんだ、と聞かれると、その答えも持っていない。結局、いくら「自然のままがいい」と言っても、それはあくまで、「人間にとってのあるべき自然」のことだし、それなら、どうしてもどこかで「人工」が必要になるということでもある。自然のオイシイとこだけいただこう、というのは、あんまりムシがよすぎる発想だしだいたい不可能だ。それなら、自然と人工物が、どのように折り合っていくのがいいのか、ということを考えたほうが早いような気がする今日このごろなんである。

 

 
 
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